現在、環境保全型農業や持続可能な農業のロールモデルとして世界で注目の高まる有機農業。
その発展には国を挙げての様々な支援が関係しています。
この記事では、「イタリアの有機農業」について調べた内容を記事にしました。
世界各国の有機農業への取り組みを比較することで、オーガニックが少しづつ拡がって来た背景が見えてくるかもしれません。
イタリアの有機農業の発展
イタリアの有機農業は70年代後半から取り組みが開始され、90年代の後半から大きな成長を見せるようになります。
現在では、ヨーロッパでも有数の有機農業国であり、耕地面積あたりの有機農業取組面積はEU内でもトップクラスにあります。
イタリアで有機農業が早くから発展したと考えられる理由として、国民性や気候、国の制度などの特徴が影響していると考えられているようです。
まず、国民の環境に対する意識が強く、他の国と比べても農業が環境に与える悪い側面の理解が浸透しています。
また、食品の安全性への関心も高く、O-157や鳥インフルエンザなどの流行からは特に関心が強く高まっている傾向にあります。
また、EU全体やイタリア国内での政策の中で、環境保全や農業が重要な事柄として扱われていて、流通体制から、研究や指導体制などが確立しています。
イタリアという国の気候も有機農業に適していて、冷涼で乾燥した気候では病害虫が発生しにくいのです。
イタリア発祥の「スローフード」と有機農業の親和性
イタリアは、有機農業と親和性の高い「スローフード」発祥の地でもあります。
みなさん、「スローフード」という言葉を見聞きしたことはありますか?
スローフードとは、地域の食や伝統や文化を楽しむなど、ゆっくりと時間を過ごす生活を守る取り組みとして、1980年代に始まった運動です。
このスローフードが生まれた背景として、「食のグローバル化」が問題視され始めたことがあります。
イタリア人には地域で昔から食べている食材や料理を大事にする国民性があります。
当時、加速的に発展していたファストフードの地域への流入から、食の伝統を守るためにこのスローフードは生まれました。
このスローフードは、現在では消滅の危機にある伝統料理を守るプロジェクトや、国内外の地域にある食の伝統や文化を発信するイベントなどの取り組みが行われるなど、当時よりももっと多岐にわたる運動へ発展しているようです。
可能な限り環境に変更を加えないイタリアでの有機農業は、このようなイタリア人の国民性やスローフードの意識と親和性が高いと言えるかもしれませんね。
イタリア独自のオーガニック認証「ICEA」
イタリアでは、EUのオーガニック認証だけでなく、イタリア独自の「ICEA」というオーガニック認証も普及しています。
ICEAは、「 Istituto per la Certificazione Etica ed Ambientale(倫理環境認証機構)」の略で、AIAB(イタリア有機農業協会)内に置かれている有機認証期間です。
オーガニック認証機関の先駆け的な存在で、イタリア国内では認知度が最も高い認証期間でもあります。
認定の基準には、遺伝子組み換え原料の不使用や指定された禁止成分の不使用だけでなく、ラベル表示や成分表示に関する規定まで細かく定められています。
認定の対象となる製品は、食品や化粧品だけでなく、生産者・消費者・環境に配慮した開発になっているかという観点からホテルなどの建造物まで対象になっています。
イタリア政府による有機農業への支援
イタリア国内の有機農業の発展には、少なからず政府による農業政策の影響があります。
土地利用の最適化
イタリアには、土地を効率的かつ持続可能な方法で利用していくための法律が定められています。
その上で、有機農業に対する支援として有機農業を行う農家へ補助金を支給することで、国全体に有機農業が効果的に広まりました。
農業の現代化
農業に現代技術を取り入れることも積極的に行っています。
農業生産の合理化や環境に配慮した農業技術の導入、食品加工技術の研究開発によって、生産性と品質の向上が図られています。
また、イタリアでは小規模農家が持つ高い生産技術をより生かすために、スマート農業を導入していく取り組みも行われています。
例として、ワイン用のブドウ栽培において、気象や土壌の状態などのデータを用いた解析や、バラつきの出やすいブドウの品質が一定以上になるような精密農業の研究も進められています。
農業の多様性の保持
イタリアは、農業の多様性を保つことにも力を入れています。
イタリアの各地域には特有の農産物があり、その地域ごとによって異なる食文化が存在しています。
イタリア政府は、地域に応じた農業政策を定めることによって、地域ごとの特色のある農業を促進し、地域経済を活性化することを目指しています。
そして、伝統的なイタリア料理の食材であるチーズやワインなどの製造を支援することで、地域の特産品の保護に取り組んでいます。
日本でも有機農業の普及が進められています
日本国内でも有機農業の取り組みが進んでいます。
持続可能な食料システムの取り組みとして、令和3年に農林水産省が「みどりの食料システム戦略」を策定しました。
「みどりの食料システム戦略」における目標の中には、次のようなものがあります。
- 2040年までに、次世代の有機農業技術を確立する
- 2050年までに有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大する
- 2050年までに低リスク農薬への転換、総合的な病害虫管理体系の確立・普及を行い、化学農薬の使用量を50%減らす
そして、2010年から2020年までの10年間で、有機農業の耕地面積は次のように広がっています。
- 有機農業の取組面積:16,700ha→25,200ha(51%増加)
- 有機JAS取得農地面積:9,400ha→14,100ha(50%増加)
有機農業が日本でも徐々に広がっていることが分かりますね。
これは、生産者による思いの強さもあります。
2021年度に行われた意識・意向調査によると、生産者が有機農業に取り組む理由として「よりよい農産物を提供したい」という意見が約7割を占めていました。
消費者が「いい農産物を食べたい」と思うのと同じように、生産者の方々も「いい農産物を食べてほしい」という思いを持っていることが分かりますね。
らる畑では、有機野菜やオーガニック食品をたくさん取り扱っています。
品物ひとつひとつの中に生産者の思いやストーリーが詰まっていますので、ぜひ手に取ってお楽しみください。
<参考>
- EUにおける有機(オーガニック)農業の現状~高まる有機志向~(農畜産業振興機構)
- イタリアの有機農業の現状(農畜産業振興機構)
- 欧州の有機農業大国イタリアを訪ねて(三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング)