こんにちは!札幌円山のオーガニックショップ「らる畑」のブログを担当しております松原です。
今回のテーマは「農薬」。私は学生の頃、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読んで、大きな衝撃を受けたのを鮮明におぼえています。
一口に「農薬」と言っても、種類は多くあります。毒性の高いものから、自然や身体に害を与えない天然由来のものまで様々です。
今回は「化学合成農薬」とはどのような農薬なのか、他の農薬との違いや日本の農薬事情についてご紹介します。
化学合成農薬とは「化学合成された有効成分を含む農薬」
農薬に含まれる有効成分が化学合成されたものを、化学合成農薬と言います。化学農薬と呼ばれることも多いです。
化合物や元素の構造を人工的に変化させることで、有効成分の効能を高めています。
一方で、種類によっては毒性を持つものもあり、土壌や生態系に影響を与えるおそれがあります。
そのため「有機農産物」や「特別栽培農産物」などの表示において使用が制限される農薬でもあるのです。
化学合成農薬と生物農薬
いまご紹介したように、化学合成農薬とは成分を人工的に変化させたものです。
それに対して、自然の力を用いた「生物農薬」という農薬の種類があります。
生物農薬病害虫や雑草の防除に、微生物や天敵の生物を使用するという方法のことをいいます。
生物農薬には、化学合成農薬の散布による負担を軽減したり、化学合成農薬に抵抗性を持つ害虫を抑制できるメリットがあります。
化学合成農薬の中の「節減対象農薬」という分類
化学合成農薬の中でも、「節減対象農薬」と「節減対象以外の農薬」に分類されます。
節減対象農薬とは、「従前の化学合成農薬から有機農産物のJAS規格で使用可能な農薬を除外したもの」とされています。
これは、農薬の使用を少なく育てたことを示す「特別栽培農産物」の表示のために使用される分類です。
節減対象農薬の使用回数を地域の慣行レベルの半分以下の量に抑えることで「特別栽培農産物」の表示ができるようになります。
また、有機農産物のJAS規格というのは、科学的な手を加えず、できる限り自然の力で育て上げた農産物のこと。農林水産省による厳しい条件を満たす必要があります。
JAS規格に基づく有機農産物の栽培には、節減対象以外の農薬の使用は可能であり、それらは天然物に由来する成分でできているものが多いです。
参考『特別栽培農産物表示ガイドライン』(農林水産省)
日本ではどんな農薬が使われているのか
農薬は、代表的なものとして、除草剤、殺虫剤、殺菌剤、植物成長調整剤などがあります。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
除草剤
除草剤は、農作物の周りに生える雑草を除草するための農薬です。
雑草が成長するための光合成や細胞分裂を抑制する効果があります。
殺虫剤
殺虫剤は、害虫による農作物への被害を防除するための農薬です。
虫に作用する効果にも様々あり、神経に作用するものや、成長を抑制するもの、筋細胞に作用して摂食行動を止めるものなどがあります。
殺菌剤
殺菌剤は、植物がかかる病気を防除するために使用される農薬です。
病気の元となるカビやバクテリアの感染を防ぎ、農作物に抵抗力を与える効果があります。
植物成長調整材
植物成長調整剤は、農産物の生育を促進させ、発育の期間を調整するための農薬です。
農作物の品質や収穫量を向上させたり、外部環境による収穫量の増減を安定させる効果や、開花期や成熟期をコントロールする効果があります。
日本で禁止されている農薬
日本で禁止されている化学合成農薬は、下記をご覧ください。
これらのうち、半分以上は1990年代以前に禁止されています。
一番新しいものではエンドスルファン(ベンゾエピン)が2010年に失効になりました。
- リンデン
- DDT
- エンドリン
- ディルドリン
- アルドリン
- クロルデン
- ヘプタクロル
- ヘキサクロロベンゼン
- マイレックス
- トキサフェン
- TEPP
- メチルパラチオン
- パラチオン
- 水銀及びその化合物
- 2,4,5-T
- 砒酸鉛
- シヘキサチン
- カプタホール
- PCP
- クロロニトロフェン
- キントゼン
- コホール
- ペンタクロロベンゼン
- α-ヘキサクロロシクロヘキサン
- β-ヘキサクロロシクロヘキサン
- クロルデコン
- エンドスルファン(ベンゾエピン)
参考『農薬の販売・使用の禁止』(農林水産省)
日本の農薬使用量
日本の農地面積当たりの農薬使用量は世界的に見ても多い傾向にあります。
2020年の統計によると、主要国の農地面積1ヘクタールあたりの農薬使用量は以下のようになっています。
日本 | 11.89kg |
アメリカ | 2.54kg |
中国 | 1.95kg |
フランス | 3.44kg |
ブラジル | 5.94kg |
参考『Pesticide use per hectare of cropland, 2020』(Our World in Data)
しかし実は、データから「日本は農薬を使いすぎていて良くない」と判断することも難しいのです。
というもの、育てる作物や気候の違いにより必要になる農薬の量が変わるという背景があります。
日本で農薬が多くなってしまう背景として以下の事柄が考えられます。
- 集約的な農地
- 高温多湿の気候
- サイズや見た目の美しさなどにこだわるマーケットに応えるため流通市場の規格が厳しい
- 四季を問わず、通年安定供給をするために日光や温度を管理する促成栽培(ハウス栽培)が発達し、成育の管理に農薬を必要とする
- トマト・キュウリ・ナスなどの果菜類、ネギ類、フルーツなどの病害虫の被害を受けやすい作物が多い
日本の農業は産地集約的であり、雑草や病害虫が発生しやすい高温多湿の気候。
日本で育てることの多いトマト・キュウリ・ナスなどの果菜類、ネギ類、フルーツなどの野菜は、病害虫の被害を受けやすい傾向があります。
また、日本のマーケットでは、見た目の美しさにこだわる傾向があり、虫食いや形が不揃いの野菜を並べても売れない現状から、流通の規格がとても厳しく管理されています。
さらに、通年を通して野菜の安定供給を求められるため、自然環境とは違う促成栽培(ハウス栽培)が増え、農薬に依存する現状があります。
日本の厳しい規格にあった美しい野菜を通年、効率的に栽培するには、農薬も必要になってしまうという事情にも考慮しなければいけないのです。
農薬を使わないとどうなる?
農薬を全く使わないと、農作物の栽培にどのような影響が出てしまうのか見ていきましょう。
収穫量が少なくなる
農薬を使わないと、農作物が病害虫の被害を受けやすくなります。
品質も保ちにくくなり、全体的に収穫量が減ってしまう可能性が考えられます。
生産効率が下がる
農薬を使用することで、農作物の発育を促進したり発育の妨げになる病害虫の防除をすることができます。
農薬を使用しない農業は、農作物が簡単に育ちにくくなってしまい、どうしても生産効率が下がってしまうのです。
栽培に手間がかかる
農薬を使用しないと、害虫や雑草を自分の手で管理しなければいけません。
どうしても人力が必要になる場面が増えてしまいます。
農作物のひとつひとつに細かく注意を払う必要があるため、時間と手間がかかり、その分の体力も求められます。
有機野菜・オーガニック野菜という選択肢
化学合成農薬を使用しない農業として、「有機農業」というものがあります。化学合成された農薬は全て使用することができず、天然由来の成分でできた一部の農薬のみ使用が認められています。
できる限り自然の力で育成するため、自然そのままの風味を味わうことができます。
野菜の質の良さだけでなく、有機農業は化学合成農薬を使用する慣行農業と違い、土壌や生態系に与える影響を排除することもできます。
多様な生き物と共存することで土地の自然循環機能が維持・増進され、持続的な発展につながるという恩恵も考えることができるのです。
まとめ
今回は、「化学合成農薬」という農薬の特徴や、どうしても農薬の使用量が多くなってしまう日本の事情についてご紹介しました。
化学合成農薬は、農作物の生育を効率よく行うことができるメリットがある一方で、使用する農家さんや生態系、水や土壌など、周りの環境に変化を加えてしまうおそれがある農薬でもあります。
そのため、近年は日本を含め世界的に化学合成農薬の使用を減らしていく動きになっていますが、日本の農家さんが化学合成農薬に依存せざるを得ない背景に、流通の規格や通年安定供給するというマーケット側の要請があります。
消費者である私たちが、野菜の形や美醜、虫食いに対して許容できる範囲を増やしていくこと、自然の力で育った旬の野菜以外を極力求めないことが、化学合成農薬を減らしていく後押しになります。
「オーガニック」や「特別栽培」などの表示を気に掛けたり、お近くのスーパーの品ぞろえに要望してみたり、ぜひお買い物の選択肢に加えてみてください。
今回の参考:
『特別栽培農産物表示ガイドライン』(農林水産省)
『農薬の販売・使用の禁止』(農林水産省)
『Pesticide use per hectare of cropland, 2020』(Our World in Data)