現在、環境保全型農業や持続可能な農業のロールモデルとして世界で注目の高まる有機農業。
その発展には国を挙げての様々な支援が関係しています。
この記事では、「アメリカの有機農業」について調べた内容を記事にしました。
世界各国の有機農業への取り組みを比較することで、オーガニックが少しづつ拡がって来た背景が見えてくるかもしれません。
アメリカの有機農業の発展
アメリカの有機農業は、1970年代に生まれたと言われています。
2度の世界大戦が行われた1920年代と1930年代のアメリカでは、農業が主な産業として活発に行われていました。
1940年代以降は、化学肥料や化学農薬が普及し、農業の生産性が大きく飛躍したことで、農作物を大量生産できるようになります。
化学肥料・化学農薬が普及するなか、1960年代ごろに農業による環境汚染や、作物に対する安全性に国民の関心が集まるようになります。
そして1970年代に、東部のメイン州と、西部のカリフォルニア州でそれぞれ有機農業の団体が設立され、1980年代には全米にわたる有機ネットワークが確立されます。
アメリカ政府は、1990年の「有機食品生産法」を制定し、その後2000年には「国家有機プログラム」により、USDAオーガニック認証の使用が開始されます。
当初オーガニック食品を扱うのは、小さな専門店や直売所などの店舗でしたが、有機食品の需要が世界的に高まっている背景もあり、現在ではほとんどの有機食品がスーパーマーケットで販売されています。
アメリカの有機農業の農地面積
2020年の統計において、アメリカの有機農業への取組面積は2,327千haでした。
ただし、耕地面積に対する有機農業取組面積と面積割合は0.6%。
アメリカと同規模の有機農業を行っているスペイン(2,438千ha)は、耕地面積に対する面積割合が10.0%あるので、アメリカは面積割合としては低い水準にあります。
アメリカの有機農業の市場
アメリカは、世界で最も大きい有機食品市場です。
アメリカの有機食品の需要は増加傾向にあり、2020年の有機食品小売販売額
アメリカは世界で一番の有機食品売上額を誇っていて、2020年時点で5兆円を超えています。
2位のドイツの1.3兆円と比べると、世界的に圧倒的な規模の市場を持つことがわかります。
アメリカにおける有機食品の需要は90年代からずっと成長を続けていて、特に果実と野菜が大きな割合を占めています。
従来は、オーガニックの専門店やファーマーズマーケットなどでの直売など、小規模な店舗での販売形態が多かったですが、2015年前後の時期から一般のスーパーマーケットが有機食品を扱うようになりました。
現在ではスーパーでの販売額が、有機食品の販売総額のうち、約半分を占めています。
アメリカ独自の「USDAオーガニック認証」
アメリカ農務省が定める有機認証は「USDAオーガニック」です。
これは日本での「有機JAS認証」にあたります。
日本はこのUSDAオーガニック認証を有機JASと同等のものとして認定しているので、輸入した食品にUSDAオーガニック認証のマークがあれば、日本でも「有機」「オーガニック」の食品として取り扱うことが可能です。
アメリカ農務省(USDA)は有機食品の役割を次のように示しています。
「有機製品は、資源の循環を促進し、生態学的バランスを促進し、土壌と水の質を維持および改善し、合成材料の使用を最小限に抑え、生物多様性を保全する農業生産慣行を使用して生産されなければなりません」
認証を得るために達成する必要がある基準には、以下のような項目があります。
- 3年以上化学農薬・化学肥料を使用していない農地で栽培されていること
- 成長ホルモンや遺伝子組み換え原料の禁止
- 加工食品の場合は減量の95%以上が有機認定原料であること
また、このUSDAオーガニックには以下の4種類のカテゴリーがあります。
- 100 percent organic(100%の原料がオーガニック)
- Organic(95%以上の原料がオーガニック)
- Made with Organic(70%以上の原料がオーガニック、認証マークの貼付ができない)
- Specific organic ingredients listings(使用している原料のうちオーガニックが70%未満、認証マークの貼付や、オーガニック製品と表示することができない)
アメリカ政府による有機農業への支援
2022年、アメリカ農務省(USDA)は、慣行農業から有機農業への転換をする農家に対して費用の助成を行うことを発表しています。
というのも、USDAオーガニックの認証を新たに得ることは決して簡単ではなく、費用面でも負担がかかってしまう背景があったのです。
具体的には、オーガニック認証コストシェアプログラムで、オーガニックプロセスへの移行費用を最大750ドル(約96,000円)支援しています。
また、有機農業へ移行するための教育の支援にも力を入れていて、トレーニングに必要な費用の助成も行っています。
オーガニック移行教育認証プログラムにて、認定が必要なカテゴリーごとの教育に最大250ドル(約32,000円)支援しています。
日本でも有機農業の普及が進められています
日本国内でも有機農業の取り組みが進んでいます。
持続可能な食料システムの取り組みとして、令和3年に農林水産省が「みどりの食料システム戦略」を策定しました。
「みどりの食料システム戦略」における目標の中には、次のようなものがあります。
- 2040年までに、次世代の有機農業技術を確立する
- 2050年までに有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大する
- 2050年までに低リスク農薬への転換、総合的な病害虫管理体系の確立・普及を行い、化学農薬の使用量を50%減らす
そして、2010年から2020年までの10年間で、有機農業の耕地面積は次のように広がっています。
- 有機農業の取組面積:16,700ha→25,200ha(51%増加)
- 有機JAS取得農地面積:9,400ha→14,100ha(50%増加)
有機農業が日本でも徐々に広がっていることが分かりますね。
これは、生産者による思いの強さもあります。
2021年度に行われた意識・意向調査によると、生産者が有機農業に取り組む理由として「よりよい農産物を提供したい」という意見が約7割を占めていました。
消費者が「いい農産物を食べたい」と思うのと同じように、生産者の方々も「いい農産物を食べてほしい」という思いを持っていることが分かりますね。
らる畑では、有機野菜やオーガニック食品をたくさん取り扱っています。
品物ひとつひとつの中に生産者の思いやストーリーが詰まっていますので、ぜひ手に取ってお楽しみください。
<参考>
- 『【世界の有機農業】アメリカ 「慣行化」した有機と「本当の」有機』(現代農業)
- 『アメリカ農務省がオーガニックへ移行する農家を支援 最大750ドルを負担』(ELEMINIST)
- 『No.265 アメリカにおける有機農業発展の歴史の概要』(西尾道徳の環境保全型農業レポート)